❄️ 観劇レポート:雪組公演『ボー・ブランメル~美しすぎた男~』

公演情報

美しき虚像と真実の愛の狭間で——朝美絢が演じる究極のエゴイズムと夢白あやの儚い輝き


序章:幕開けと共に傾く世界観

雪組公演『ボー・ブランメル~美しすぎた男~』は、幕開けから観客を一気に19世紀初頭のイギリス社交界へと引き込みます。舞台を斜めに区切るような「ダッチアングル(傾いた角度)」の演出や、ロココ調の豪華絢爛な衣装をまとうコロス的なキャラクターの登場は、主人公ボー・ブランメルが生きた、歪んだ価値観と虚飾に満ちた世界を象徴しているかのようです。

本作の楽曲は、ブロードウェイのヒットメーカー、フランク・ワイルドホーン氏が担当。彼の楽曲は、その美しいメロディラインで、登場人物の葛藤や情熱をドラマティックに描き出します。
特に、ボー・ブランメルの野望や苦悩を歌い上げる力強い楽曲は、朝美絢の持つ熱量と歌唱力と相まって、本格的なミュージカルとしての見応えを十二分に感じさせます。

この作品は、単なる華やかな伝記物語ではなく、「美学」という名の究極のエゴイズムを貫いた男の孤独と愛、そして破滅を描ききった、非常に挑戦的で深みのある一本と言えます。

Ⅰ. 👑 朝美絢:美しき虚像を纏う孤高の魂

雪組トップスター朝美絢が演じたのは、歴史に名を残すファッショニスタ、ジョージ・“ボー”・ブランメル。貴族ではない出自ながら、自身のセンスと美意識だけで社交界の頂点に君臨した男です。

1. 究極の「美」と「熱量」の融合

朝美絢は、その非の打ち所のない美貌を最大限に活かし、常に完璧な身嗜みを崩さないブランメル像を体現しました。しかし、その魅力はそれだけに留まりません。

舞台上でのブランメルは、「美しすぎる男」というレッテルを背負いながらも、内面では父の上流階級への執着と、自身の美学を貫くことへのプレッシャーと孤独に苛まれています。朝美は、その内なる熱量役者としての深みをもって、単なる美しい人形ではない、苦悩する芸術家としてのブランメル像を描き切りました。特に、自身の美学が崩れ去り、破滅へと向かう終盤の演技と歌唱は、観客の胸を締め付けるものです。彼女の演技の熱量は、「顔の美しさばかりが取り沙汰されるのはもったいない」と感じさせる所以であり、本作は間違いなく朝美絢の代表作の一つになると感じます。

2. ダンスと立ち姿に宿る気品

社交界の華であるブランメルを演じるにあたり、朝美絢のブレない体幹と軸のあるダンス、そして一挙手一投足に宿る気高さは、群を抜くものです。特に、華やかな舞踏会のシーンでの立ち姿や、プリンス・オブ・ウェールズ(後のジョージ4世)との対立の場面で見せる一歩も引かない強い眼差しは、彼が「美学」を武器に社会を支配しようとした男であることを雄弁に物語るものでした。

Ⅱ. 🌹 夢白あや:儚い光を放つラストヒロイン

この公演は、トップ娘役夢白あやの退団公演でもあります。彼女が演じたハリエット・エリオットは、ブランメルに真実の愛と救いをもたらす、光のような存在です。

1. 極まる美しさと儚い純粋さ

夢白あやの舞台姿は、退団を控えた今、まるで極まった美しさの結晶のようです。特に、白い衣装を纏った姿は、社交界の虚飾とは無縁の純粋さを象徴しており、ブランメルが最後にすがろうとした「真実の愛」そのものです。

ハリエットの純粋で脆い内面と、社交界という冷たい世界で生きるための強さを、夢白あやは繊細な芝居で見事に表現しました。ブランメルとの愛の駆け引きの中で見せる憂いを帯びた表情は、観客の心に深く刺さるものでした。

2. ラストシーンとデュエットダンスの輝き

クライマックスでの、赤いバラの花束を抱えて銀橋を渡る夢白あやの姿は、まさにこの公演のハイライトであり、観客の目に焼き付く儚い光でした。退団公演ということもあり、その美しさは思わず感極まるほどです。

そして、真っ白な衣装に包まれた朝美絢と夢白あやのデュエットダンスは、まるで天上の舞い。苦難を乗り越えた二人の魂が、舞台の隅々まで美しく、そして切なく響き渡りました。この完璧な美の競演は、このトップコンビでしか到達し得なかった境地と感じさせます。

Ⅲ. 🎭 雪組が誇る「層の厚さ」と娘役の躍進

本作は、トップコンビの輝きだけでなく、雪組の芝居巧者たちが脇を固めることで、重厚なドラマを構築していました。

1. 恐ろしくも美しい二人の公爵夫人

本作で特に注目すべきは、娘役たちの強烈な存在感です。

  • デボンシァ公爵夫人(華純沙那): ブランメルの恋のライバルとして立ちはだかる、恐ろしくも美しい社交界の女傑。嫉妬心をメラメラと燃やしながら、社交界の権力を振りかざす冷徹さを、華純沙那が新公学年とは思えない発声と存在感で見事に好演。その妖艶さと冷たさは、観客を震え上がらせるほどでした。
  • キャロライン皇太子妃(音彩唯): 高貴な生まれの正当な皇太子妃としての揺るぎない気高さと貫禄を表現。トーリー党との駆け引きのシーンで見せた力強い歌唱力は、次期トップ娘役への期待を抱かせる説得力がありました。

この二人の大人で冷静、そしてしたたかな女性像があってこそ、ハリエットの純粋さや脆さがより際立ち、物語に緊張感をもたらしていました。

2. 重要な役柄を担う上級生たち

  • プリンス・オブ・ウェールズ(瀬央ゆりあ): ブランメルの最大の友であり、ライバルでもある皇太子を演じた瀬央ゆりあは、その芝居とダンスの自在さで、ブランメルに引けを取らない存在感を発揮。二人の関係性の変化は、物語の推進力となっていました。
  • ウィリアム・ブランメル(諏訪さき): ブランメルの父ウィリアムが抱える上流階級への狂気に近い憧れと執着を、諏訪さきが圧倒的な歌声と表情で表現し、物語の根源的な苦しみを担っていました。

結び:虚飾の時代の、真実の愛の物語

『ボー・ブランメル~美しすぎた男~』は、美しい衣装や豪華な舞台機構に彩られながらも、「人は何によって美しくなれるのか」「真実の愛とは何か」という普遍的なテーマを問いかける作品でした。

朝美絢が体現した孤高の美学と、夢白あやが放った儚い愛の光。そして、その二人を支える雪組生たちの骨太な芝居が融合し、観客の心に深く残る重厚な人間ドラマを紡ぎ出しました。

雪組の層の厚さと、トップコンビの極まった美しさを堪能できた本作は、観客にとって「これぞ宝塚!」と心から思える、忘れられない公演となったことは間違いないでしょう。


【総評】

  • 作品のテーマ: 虚飾と美学、そして真実の愛
  • トップコンビ: 華麗な美しさと芝居の熱量が完璧に融合した、まさに集大成
  • 雪組の層: 娘役たちが特に躍進し、重厚なドラマを支える力強い組力
  • おすすめ度: 宝塚ファンはもちろん、本格ミュージカルファンにもおすすめしたい一本。
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