🌸 花組『DEAN』(主演:極美慎)公演レポート

公演情報

魂の咆哮と孤独の美しさ—『DEAN』が描く破滅的な天才の光と影

序章:伝説の再演と花組への新しい風

2025年、宝塚歌劇団花組は、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティと日本青年館ホールにて、故ジェームズ・ディーンの激しく短い生涯を描いた作品『DEAN』を上演しました。この作品は、27年ぶりに再演された伝説的な演目であり、主演を務めるのは、星組から花組へ組替え後、初の主演となる極美慎です。

極美慎にとって、新しい組での挑戦、そして偉大なスターの人生を背負うという重責は計り知れません。しかし、彼女の舞台上での渾身の演技は、客席の心を掴み、「漢・極美慎」から「スター・極美慎」に変貌を遂げたとも評されています。

本レポートでは、極美慎が体現した孤独で危うい青年像、共演者たちの活躍、そしてこの作品が花組にもたらした新たな熱気と深みについて、詳細にレポートします。


第一章. 🌟 極美慎が体現した「孤独で危うい天才」

ジェームズ・ディーンは、若くして不慮の事故で世を去った薄幸のスターであり、その生涯は、母との死別、父との確執、愛に飢えた孤独、そして破天荒な反骨精神に満ちています。極美慎は、この複雑で多面的な天才の光と影を見事に描き切っています。

1. ジェームズ・ディーンに負けないビジュアルとスタイル

まず観客の目を引くのは、極美慎が持つ本家ディーンに匹敵する美しさとスタイルの良さです。その恵まれた容姿は、ディーンの持つ天性のスター性と結びつき、舞台での説得力を高めています。

しかし、その魅力はビジュアルだけに留まりません。ディーンの繊細さと反骨精神を併せ持つキャラクターを、彼女は全身の演技で表現しています。特に、愛に飢えた「捻くれ者でわがままな青年」としての孤独感は、彼女が美しさの中に持つ「危うさ」という魔力を宿らせ、観客の視線を釘付けにする魅力を放っています。

2. 組替え後の心境が役柄に与えた深み

公演を観劇した感想の中には、極美慎が花組に来て感じたであろう孤独感や戸惑いといったリアルな感情が、ディーンの役柄に乗り移っているように感じられた、という声も多く聞かれています。

新しい環境での挑戦、自身に求められるものが大きくなったことへの重圧、そして舞台人としての責任感。これらに対する彼女自身の感情が、ディーンの苦悩しつつ演じる生きざまと重なり、観客の胸をわしづかみにするような、迫真の演技となっています。毎公演、何かを感じて進歩していく彼女の「懸命な生きざま」は、真のスターとしての逞しさすら予感させるものとなっています。


第二章. 🌸 新花組の熱気と実力派の共演

この公演は、極美慎の主演作であると同時に、花組の若手からベテランまで実力者が集結し、作品に更なる深みを与えています。稽古場レポート等のインタビューでも、彼女の星組からの組替えにより花組へ新たな風がもたらされ、稽古場は常にフレッシュで和やかな熱気に包まれていると語られています。

1. 娘役トップの輝きと芝居の巧さ(ピア・アンジェリ役)

娘役を演じた朝葉ことのは、ディーンの恋人となるピア・アンジェリ役で大活躍しています。

彼女は、声や滑舌の良さ、芝居・歌の巧さが評価される実力派です。ストーリーの中でのディーンとの掛け合いや遊び心あふれるシーンでは、二人の複雑で依存的な愛を見事に表現し、物語に深みを与えています。特にディーンが愛を求め、すべてにおいて味方でいて欲しかったピアとの心情が描かれる場面は、観客の心に強く残る重要なシーンとなっています。

2. 物語にスパイスを与えた個性派の面々

  • ヘダ・ホッパー(美風舞良): 「ハリウッドの新聞女王」と呼ばれたジャーナリスト役を、花組組長の美風舞良が演じ、その強烈な個性で物語に緊張感と華やかさを与えています。
  • ベン(希波らいと): PR会社の社長役を演じた希波らいとは、ディーンとは真逆の、媚びることが平気で軽薄な人物像を軽快に演じ切り、ともすれば重くなりがちな物語の中に上質の笑いをもたらしています。
  • NYのコーヒー屋の店主(愛乃一真): 彼女は歌上手でありながらこれまで役付きが渋かったとも評価されますが、本公演ではディーンとの場面や歌唱場面が多く設けられ、大活躍しています。

これらの実力派キャストが、ディーンを取り巻くハリウッドという世界をリアルに描き出し、演目全体を力強く支えています。


第三章. 🎬 映画の世界とディーンの才能

作品は、ディーンの私生活だけでなく、彼が舞台役者からハリウッドスターへと駆け上がる道のり、そしてその演技を巡る人々の葛藤を描いています。

1. 才能に惚れた支援者たちの存在

ディーンの生きる道は棘が多いものの、その才能に惚れ込んだ支援者たちが道中のいばらを抜き、カーペットを敷いてあげている、というエピソードが多く描かれています。彼らはディーンを理解しようと努め、才能の開花を助けます。

特に、エリア・カザン監督(和海しょう)とディーンの対話シーンは、役作りや演技への情熱が交錯する、この物語の核となる重要な場面です。ディーンは、自身が役作りをする上で、スタッフや監督との対話を通じて多くのものを吸収し、成長していきました。

2. 破滅的な愛と依存的な性格

ディーンの持つ依存的な性格や、愛を求める孤独が深く掘り下げられています。ピア・アンジェリとの恋は、ディーンにとってすべてにおいて味方でいて欲しいという強い依存性が伴っていました。

また、海岸でのピアとディーンのシーンでは謎の少年が歌い踊るなど、ディーンの内面的な孤独や破滅願望を示唆するような演出が印象的です。ディーンは、その才能と引き換えに、常に愛と居場所を探し続けていました。


終わりに:極美慎、花組で踏み出した大きな一歩

花組公演『DEAN』は、極美慎が星組から花組へ組替え後に初めて主演を務めるという、彼女のキャリアにおいて極めて重要な作品となりました。

この難しい役柄に、極美慎は自身の美しさ、スタイルの良さという天性の武器に加え、新しい組で感じたであろう戸惑いと情熱を重ね合わせ、渾身の演技で応えました。その熱演は、観客に彼女自身の成長と、確固たるスターとしての輝きを実感させるものでした。

本公演は、極美慎という一人の俳優が、花組という芝居の場において、役者としてさらに一歩先へ進んだことを証明するものであり、花組の新たな時代の到来を予感させる熱気に満ちていました。


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