【月組】鳳月杏:満を持して咲いた「月」の花 — 芝居と色気を極めた孤高の求道者
序章:待望のトップ就任、月組の芝居に咲く「異彩の華」
2024年、宝塚歌劇団は、鳳月杏を月組の新トップスターに迎えました。2006年に92期生として入団以来、長年にわたり男役の道を究め、月組、花組、月組という稀有なキャリアを経て頂点に辿り着いた彼女は、まさに「満を持して咲いた大輪の花」です。
愛称は「ちなつ」。彼女が体現する男役像は、従来の「二枚目」の枠を超越した、妖艶な色気に満ちています。卓越した芝居力と、しなやかなダンス、そして唯一無二のオーラは、月組が誇る「芝居の月」の伝統に、新たな風と深みをもたらしています。
本記事では、鳳月杏がいかにしてその独自の男役像を確立し、月組のトップスターとして輝くに至ったのか、そのキャリア、表現力、そして舞台にかける情熱を深く掘り下げていきます。
Ⅰ. 🌙 鳳月杏が創り上げた、妖艶で色気のある男役像の魅力
鳳月杏が多くのファンを虜にする最大の要因は、彼女が作り上げた唯一無二の男役の美学にあります。
1. 妖艶さ、クールさ、そして人間味の融合
彼女の魅力は、単なる格好良さや華やかさだけではありません。
- 妖艶な色気: 長い手足と涼やかな目元が醸し出す、どこか儚く、手が届かないような危うい色気。これが、鳳月杏の代名詞とも言える魅力です。悪役や影のある役を演じる際、この妖しさが最大限に発揮され、観客を惹きつけます。
- 古典的な男役の格好良さ: その一方で、タキシードや軍服を纏った際の端正で気品溢れる立ち姿は、正統派男役としての揺るぎない魅力を放ちます。この両極端な要素を併せ持つからこそ、彼女の表現は深い説得力を持ちます。
2. しなやかで情熱的なダンス
宝塚歌劇団の中でも指折りのダンサーとして知られる鳳月杏。彼女のダンスは、長身(172cm)と長い手足を活かした優雅でしなやかな動きが特徴です。
しかし、その優雅さの裏には、役柄の感情を爆発させる激しい情熱が秘められています。特にレビューやショーで見せるダイナミックな群舞での存在感は圧倒的で、彼女のダンスは「感情を表現するための手段」として、観客の心に強く訴えかけます。
Ⅱ. 💠 組を超えた道のり:表現力を深めた異色のキャリアパス
鳳月杏のキャリアは、月組→花組→月組という二度の組替えと、入団19年目という遅咲きの道のりが特徴です。この経験こそが、彼女の表現に圧倒的な深みと、組の枠を超えた普遍的な魅力をもたらしました。
1. 🌙 月組時代(2006年〜2014年):芝居の月で基礎を学ぶ
2006年に92期生として入団し、宙組公演『NEVER SAY GOODBYE』で初舞台を踏んだ後、月組に配属されます。
- 芝居の月で育まれた表現力: 月組は「芝居の月」と呼ばれ、人物の心情を深く掘り下げることが重視される組です。鳳月はここで、繊細な役作りと、心情を丁寧に伝える歌唱・演技の基礎を築きました。
- 新人公演での経験: 2013年の『ベルサイユのばら』新人公演で、アンドレ役という大役に挑戦。後の彼女の男役としての正統な格好良さと、ロマンティックな芝居の片鱗を見せました。
この時期に、彼女のクールな佇まいと、役に入り込む真摯さが培われました。
2. 🌸 花組時代(2014年〜2019年):ダンスと「華」の大幅な開花
2014年末に花組へと組替え。この異動が、彼女の男役としての「華」と「ダイナミズム」を飛躍的に開花させました。
- 「華の花組」で得たもの: 花組は、ダンスとレビューの華やかさが伝統の組です。鳳月はここで、持ち前の長身と手足を活かしたダイナミックでしなやかなダンスに磨きをかけました。彼女のダンスが持つ情熱と優雅さは、この花組時代に確立されたと言えます。
- 主演スターへの足がかり: 組替え後すぐに、2015年の『スターダム』でバウホール公演初主演を果たします。これは、彼女のスター性に対する劇団からの高い評価を示すものであり、この主演経験が、後のトップへの重要な布石となりました。
この花組での5年間は、彼女の表現に「華やかさ」と「熱」を注入し、月組時代に得た「芝居」の技術と融合させる上で不可欠な時期でした。
3. 🌙 月組への復帰(2019年〜):真の月組スターとしての確立
2019年、組替えで再び古巣の月組へ戻ります。この復帰は、花組で得た華やかさと、月組時代に築いた芝居の基礎が、月組の舞台にとって不可欠であることの証明でした。
- 東上主演と3番手昇格: 2020年の『出島小宇宙戦争』で東上公演初主演を果たし、コミカルな役柄からシリアスな役柄まで演じ分ける才能を改めて証明。また、この頃から月組の3番手として、組のトップ集団を担う存在となります。
- 新トップ体制を支える2番手へ: 2021年、月城かなと・海乃美月トップコンビのお披露目公演より、月組の2番手に昇格。高い実力と経験を持つ鳳月が、トップコンビを力強く支え、月組の安定と質の向上に大きく貢献しました。
- 『ELPIDIO』での深み: 2022年の東上公演『ELPIDIO』で2度目の主演。この作品で見せた、退廃的で影のある役柄を深く掘り下げた演技は、彼女の「妖艶な色気」と「芝居の深み」の集大成となりました。
4. 👑 入団19年目での頂点:遅咲きの輝き
2024年7月8日付で、月組トップスターに就任。
- トップ制度固定後、最も遅咲きのトップ: 入団19年目でのトップ就任は、トップ制度固定後としては最も遅咲きであり、彼女の長年にわたる真摯な努力と、熟成された表現力が、満を持して認められた証です。
- 新トップコンビお披露目: 相手役に天紫珠李を迎え、同年の全国ツアー公演『琥珀色の雨にぬれて/Grande TAKARAZUKA 110!』でお披露目を果たしました。
この異色のキャリアパスは、鳳月杏に花組の「華」と月組の「芝居」の両方を完全に体得させ、どの役を演じても「鳳月杏の個性」が光る、説得力のあるスター像を確立させたのです。
Ⅲ. 🎭 舞台での輝き:役と一体化する芝居の説得力
鳳月杏の舞台での最大の魅力は、「役が乗り移ったかのような芝居の説得力」です。
1. 悪役・影のある役の完成度
彼女の持つ妖艶な色気は、悪役や影のある役柄でこそ最大限に発揮されます。
- 『桜嵐記』の楠木正時:楠木正行の弟であり、壮絶な時代を生きる武士の「切なさ」と「忠義」を表現。鳳月杏の持つクールな佇まいの中に、兄を想う熱い感情と、運命に翻弄される哀愁をにじませ、物語に深い陰影を与えました。
- 『グレート・ギャツビー』のトム・ブキャナン:大富豪デイジーの夫。ギャツビーとは対照的な「古き富」を背景に持つ傲慢で支配的な男を、説得力ある体躯と力強い芝居で体現。彼女の持つ男役の強さが、この屈折した悪役の魅力を最大限に引き出しました。
- 『応天の門』の在原業平:主人公・道真の相棒であり、平安時代の「色男」として名高い業平を演じました。彼の飄々とした風流さ、底知れない魅力、そして大人の色気を、鳳月杏ならではのアンニュイな魅力で体現し、観客を魅了しました。
2. 主演作で示した多様な才能
バウ・東上主演作では、彼女の多岐にわたる才能が示されました。
- 『ELPIDIO(エルピディイオ)』 – ロレンシオ: 彼女の魅力が凝縮された作品です。ロレンシオという、影を持ち、運命に翻弄されながらも生を渇望する男の複雑な感情を、研ぎ澄まされた美貌と繊細な芝居で表現。彼女の持つ妖しさと哀愁が最大限に発揮された代表作の一つです。
- 『出島小宇宙戦争』: SFコメディという異色の作品で、コミカルな芝居への適応力と、物語の推進力となるエネルギーを示しました。
Ⅳ. 👑 トップスターとしての船出と未来への期待
長年のファンからの熱い支持を受け、満を持してトップスターに就任した鳳月杏。
1. 安定感と新トップコンビ
相手役には、高い実力と凛とした美しさを兼ね備えた天紫珠李を迎え、月組の新時代がスタートしました。天紫珠李とのコンビは、お互いに長いキャリアの中で培ってきた確かな技術に裏打ちされており、安定感と大人の色気を感じさせる舞台が期待されています。
2. 鳳月杏の色に染まる月組の未来
鳳月杏がトップに就任することで、月組の伝統である「芝居」は一層深みを増すでしょう。彼女の持つ妖艶さと芸術性が、月組の舞台全体に浸透し、「大人の魅力」と「深い人間ドラマ」を特徴とする、独自の色を創り上げていくことが期待されます。
観客は、彼女がこれからどのような「物語」を見せてくれるのか、どのような「色気」と「情熱」で舞台を染め上げるのか、大きな期待が寄せられます。
結び:月組の伝統と革新を担う存在
鳳月杏は、決して早咲きのスターではありませんでしたが、その「回り道」とも言える道のりで、他の追随を許さない深い表現力と独自の男役の美学を確立しました。
月組の伝統を重んじながらも、その妖艶で艶のある男役像で観る者を魅了する鳳月杏。彼女が輝くことで、月組の舞台はさらに重厚さを増し、そして美しく進化していくでしょう。今後も、その孤高の求道者の歩みから目が離せません。

